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AP通信で報道されました

【日本は巨大で巨額の費用がかかる防潮堤を選択】

東日本大震災の大津波から5年8ヵ月になります。
この記事と動画は、昨年3月11日に、世界的な通信網を持つアメリカの大手通信会社「AP通信」が陸前高田市と岩沼市を取材したものを世界に配信し、世界77局のメディアが報じ、特に大きな反響を得たものです。
あれから1年半以上が経過し、東北被災地はどう変化したのでしょうか。
そして、東北沿岸地域のこれからは、どうなっていくのでしょうか。
復興事業の現実を踏まえて、私たちは次世代の子供たちに何を教訓として残さなくてはいけないのか。
そうしたことに思いを致すことを忘れないよう努めたいものです。

動画:「日本は巨大で巨額の費用がかかる防潮堤を選択!」

tsunami

(AP通信英文記事)

下記は、AP通信の記事を翻訳したものです。

「日本は巨大で巨額の費用がかかる防潮堤を選択」
2015年3月22日、Elaine Kurtenback

大津波が日本の北東部の海岸線の大部分を破壊してから4年、今後の津波に備える重点施策として、総延長約400km(250マイル)、場所によっては5階建ての建物の高さに匹敵するコンクリート製の何重もの防潮堤が建設されている。
8,200億円(68億ドル)を投じるこの計画に対し反対派もいる。反対派は、この巨大なコンクリートの壁は海の生態系と景観を損ない、重要な漁場を阻害し、居住者を守るためとはいいつつも、ほとんどの人々はもっと高い場所に移住するはずだから実際ほぼ意味がないと主張している。一方で賛成派は、この防潮堤はやむを得ず必要となるものであり、建設により少なくとも一時的に雇用が創出されると主張する。
北部の長部漁港で、高さ12.5メートル(41フィート)のコンクリートの壁のため海が見えないと苛立ちを示すのは武蔵和敏さん。
「実際には刑務所の塀のようだ」と語る武蔵さん(46歳)は、津波が長部を襲う以前は海辺に住んでいたが、その後は内陸に引越している。
公共事業としてのコンクリート打設は与党自由民主党とその支持者である大企業と建設業者の常套戦略であり、地方自治体もそのような計画になびく傾向がある。
専門家によるとそのようなプロジェクトには逆説があるという。建設によりいくらか被害は軽減される可能性はあるが、一方で、過信を生んでしまうというのだ。これは津波、高潮、さらにその他の自然災害に脆弱な海岸線に住む人々にとっては致命的なリスクとなりうる。2011年の災害により命を落とした、または、行方不明になった18,500人の中には、警告に注意を払わなかったため避難が間に合わなかったという方も少なくとも存在するからだ。
東北地区最大の都市仙台のすぐ南側に岩沼市があり、井口経明さんは震災時その市長を務めていた。岩沼沖でマグニチュード9の地震が発生し、その結果生じた津波によりその市の半分が浸水した。
高さ7.2メートルの(24フィート)の防潮堤が岩沼海岸の侵食を防ぐ目的で災害の数年前に建設されていたため、その周りに植えられていた背の高い細い松の木立同様、壁のような津波の速度を弱めた。しかし、津波は内陸5キロ(3マイル)まで一気に到達した。空港の上の階や屋上にいた乗客やスタッフは、車や建物や飛行機が波にさらわれる姿や、海岸から程近い郊外の人口密集地に立っていたほとんどの家屋が打ち砕かれるのをじっと見ていた。
岩沼市は壊れた防潮堤を修理したが、さらに高くする計画はない。その代わり、井口前市長は、細川護熙元首相が推進している「森の長城」計画への参画を最初に表明した地方自治体の首長の一人である。これは、海岸沿いに土または瓦礫を高く積み上げその上に多層構造の森の生きた「森の長城」を形成し、コンクリート製の巨大な人為的構造物が崩れ去った後もなお存続し続けるものを造る計画だ。
井口前市長は「防潮堤をこれまでより高くする必要はないのです。必要なのは避難することです」と語った。

「一番安全なのは高台に住むこと。そして、職場と住居を離すことです。そうすれば「万里の長城」はいらないのです」と続けた。
「発展途上国においては基本的なインフラの欠如が大惨事を招くことがあるが、そのような防衛策に頼りすぎると社会の警戒感をそいでしまうことがある」と話すのは、国連国際防災戦略事務局のトップである、マルガレータ・ワルストロム国連事務総長特別代表(防災担当)。
ワルストロム代表は「人間が持つ知見と本能こそが重要だとこれまでの教訓が示しているにも関わらず、解決策として技術を少々過信している。実際、技術は人間をより無防備にしている」と、災害リスクを減らす新たな枠組策定のため最近仙台で開催された会議に先立つインタビューで語った。
製鉄のまちとして知られる岩手県釜石市では、1,000人以上が2011年の津波で亡くなったが、小中学生のほとんどは地震発生直後に安全地帯に避難した。これは片田敏孝土木工学科教授による訓練のおかげだった。
マーティン・ファン・アー ルスト赤十字・赤新月気候センター所長は「そのリスクは日本に止どまらない」と述べ、オランダ国民も自国の低海抜防衛策に同様の姿勢をとっていると見ている。
「大衆の安全に対する思い込みが非常に強いので、壊滅的な状態に陥ったらどうしてよいかわからないだろう」と所長は続けた。
一部の反対にも関わらず、防潮堤の建設を差し控え、替わりに細川元首相の「森の長城」計画に人々を賛同させるのは骨が折れる仕事だと語るのは高橋知明さんだ。彼は地域社会における森の長城プロジェクトへの支援獲得に従事している。
「実際、多くの人々が防潮堤建設には賛成しています。雇用を創出するからです」と高橋さんは述べ、「しかし、本当はその考えは好きではない方々も、もし計画を支持する人々に賛同しなかったら相手にされなくなるかのように感じているのです」と続けた。

各地に植えられた「森の長城」は洪水を食い止めるものではないが、津波の速度を落とし破壊力を低減する。引き波では、樹木が建物やその他の瓦礫が沖に流されるのを食い止める。また、海洋生態系にとって非常に大切な成分が雨水と共に海に流れ込めるようになる。

思いもよらぬところから計画見直しを要請する声が上げられた。
安倍首相の妻の昭恵さんが昨年9月にニューヨークで行ったスピーチで、北東部の海岸線での防潮堤建設に対し大きく異議を唱えた。防潮堤の建設によって住民が今後津波に警戒しなくなる可能性や、すでに縮小している沿岸のコミュニティに対し維持費が高額になると演説した。
「たとえ決定されたことだとしても、どうか続けないでほしい」と話し、「高い防潮堤で覆われ海が見えない復興が本当に最善策なのでしょうか?」と問題提起し、一律的な計画ではなくもっと柔軟な対応を提案した。

長部の近くに位置する小都市、陸前高田市は津波によって中心部が全滅した。現在は防潮堤を以前より高くしているだけではなく、何トンもの土を使い土地を海抜よりずっと高くしている。
地元の指導者である菅野健さんは、どんな建設プロジェクトが実施されたとしても、海岸沿いに居住する住民は自分の身は自分で守らねばならないと語った。
菅野さんは、「私が強調したいのは、人間がいかなるものを造ったとしても、自然を負かすことはできない。だから人間は自然と共生するすべを見つけなければならないのだ」と話し、「危険が迫った時には逃げること。一番重要なのは自分の命を守ることなのです」と語った。

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